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大阪地方裁判所 昭和30年(行)30号 判決

原告 大徳有限会社

被告 大阪国税局

訴訟代理人 辻本勇 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「原告の昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの事業年度の法人税について、被告が昭和二九年一二月二五日付で原告の審査請求に対してした決定中、原処分に対する分を却下した部分および再調査決定に対する分を棄却した部分中二六六、一八三円を超えるものを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告は昭和二四年四月三〇日現物出資により資本金一〇〇、〇〇〇円で設立され、製材および木材の卸小売を営業とするものであつたが、原告は昭和二十五年九月ジエーン台風により、撫養木材店から販売の委託を受けていた木材を流失したため、二八一、一一一円の欠損を生じた。そこで原告は昭和二六年四月一日から、昭和二七年三月三一日までの事業年度の法人税については右二八一、一一一円を繰越欠損として当期分の総益金から控除した金額を確定申告したところ、西税務署長は繰越欠損を認めず昭和二八年五月三一日原告の右事業年度の所得金額を五四七、二〇〇円とする旨の更正決定をした。原告は同年六月二九日同署長に再調査の請求をしたところ、同署長は昭和二九年三月二九日右再調査の請求を棄却した。原告は同年四月頃被告に審査の請求をしたところ、被告は同年一二月二五日原処分に対する分を卸下し、再調査決定に対する分を棄却する旨の審査決定をし、右決定はその頃原告に到達した。

原告が青色申告書の提出を承認されていないことは認めるけれども、法人税法は天災による損失を予想しないものであるから、ジエーン台風によつて生じた右二八一、一一一円の損失は、原告が青色申告書を提出していなくても、繰越欠損として本事業年度の損金に算入せらるべきものであることは理の当然である。

仮に右主張が理由ないものとしても、原告と撫養木材店との委託販売契約においては、原告は委託を受けた木材を売却した時または原告の昭和二六年三月三一日若しくは昭和二七年三月三一日の事業年度の終りにおいて支払えば足りる約束であつた。そして原告が撫養木材店との間に流失した木材の清算をして二八一、一一一円の損失が確定したのは、昭和二七年三月三一日であつたから、原告がこれを昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの事業年度において損金に算入したのは正当である。

従つて被告が昭和二九年一二月二五日付でした審査決定は違法であるから、その取消を求めると述べ、

被告は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

原告が原告主張のような会社であること、原告の昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの本事業年度の直前事業年度において二八一、一一一円の欠損を生じたこと、原告が本事業年度の法人税について所得金額一六三、四八三円として確定申告をしたところ、原告主張のような経過で西税務署長の更正決定、再調査請求棄却の決定、被告の審査決定がなされ右審査決定が原告に送達されたことは認めるが、その他の原告主張事実を争う。

西税務署長は原告が繰越損金として本事業年度の損金に算入した二八一、一一一円を、算入できないものとして、その所得金額を五四七、二九四円と計算して更正決定をしたものである。

法人税法九条五項の規定で明らかなとおり、前事業年度において生じた損金を繰り越して当該事業年度の損金に算入できるのは、同法二五条の規定により青色申告書を提出することを承認せられた法人が欠損の生じた事業年度以降連続して青色申告書を提出している場合に限られている。ところが原告は青色申告書を提出することを承認せられた法人ではないから、同法九条五項の規定によつて前事業年度において生じた損金を本事業年度の損金に算入することは許されない。

原告は、法人税法は天災による損失を予想したものでないから、ジエーン台風によつて生じた損金は本事業年度の損金に算入すべきものであると主張するけれども、租税の負担は税法の下において公平でなければならず、租税法の適用にあたつて行政官庁の自由裁量の余地は全くなく、本来同法九条五項を適用することができない場合であるのに、天災を事由としてこれを適用すべき特別の事情があるというのは失当である。

原告主張の木材委託販売契約による損益計算は、昭和二五年四月一日から昭和二六年三月三一日までの前事業年度において、二〇一、七七九円七九銭の利益として計上せられ、昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの本事業年度において、四三七、九六七円六四銭の利益として計上せられている。そして原告が二八一、一一一円の繰越損金と主張するものは、昭和二四年四月一日から昭和二五年三月三一日までの前々事業年度の欠損四八二、八九一円の、昭和二五年四月一日から昭和二六年三月三一日までの前事業年度における同法九条四項(昭和二五年法律七二号による改正前のもの)の規定による控除残額であつて、これと委託販売契約とは何等の関係はないものである。

従つて西税務署長のした更正決定は正当であつて、被告のした審査決定に違法の点はない。

と述べた。

〈証拠 省略〉

理由

原告が原告主張のような会社であること、原告の昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの本事業年度の直前事業年度において二八一、一一一円の損金を生じたこと、原告主張のとおり、西税務署長の更正決定、再調査請求棄却の決定、被告の審査決定がなされ、右審査決定が原告に送達されたこと、原告が青色申告書の提出を承認されていないことは、当事者間に争がない。

原告は、法人税法は天災による損失を予想していないから、ジエーン台風によつて生じた損金は繰越欠損として本事業年度の損金に算入すべきものであると主張するけれども、法人税法九条五項の規定で明白なように、前事業年度において生じた損金を繰り越して当該事業年度の損金に算入できるのは、青色申告書を提出した法人が欠損の生じた事業年度以降連続して青色申告書を提出している場合に限られるものであつて、たとえその損金が天災に基金するものであつても、その取扱を異にすべきものとする趣旨は、法人税法の規定全体からも、とうていこれを認めることはできない。原告の右主張は失当である。

原告は、撫養木材店との間の委託販売契約により流失した木材の清算をして二八一、一一一円の損失が確定したのは昭和二七年三月三一日であつたと主張し、甲第二号証、第三号証の一、二の記載および証人福永潔の証言によれば、一見右主張が正しいように見えるけれども、成立に争のない乙第一、第二号証の各一から三までによると、昭和二五年四月一日から昭和二六年三月三一日までの原告の第二期事業年度決算報告書において差引欠損金二八一、一一一円六九銭と記載せられ、右事業年度の確定申告書においても再差引額二八一、一一二円と記載せられており、また昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日までの原告の第三期事業年度決算報告書において前期繰越損金二八一、一一一円六九銭と記載せられ、右事業年度の確定申告書においても前五年以内の繰越欠損金二八一、一一一円と記載せられ、一方原告の第三期事業年度決算報告書中貸借対照表の資産の部および損益計算書の利益の部にいずれも原木および商品七〇〇、二二五円と記載せられておる事実を認めることができるのであつて、「昭和二五年九月三〇日販売の委託があつたのに昭和二七年三月三〇日に至つて、右繰越欠損金二八一、一一一円に符合する金額の木材が撫養木材店に引き渡されて清算を了した」旨の右甲号証の記載および右証言はとうてい信用することができない。その他原告の右主張を確認できる証拠はないから、これを採用しない。

そうすると被告のした審査決定に違法の点なく、原告の本訴請求の失当なことは明らかであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 中島孝信 芦沢正則)

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